男子のトマス杯と違い、ユーバー杯には大本命チームが存在している。専門家やファンが声をそろえて優勝候補ナンバー1に挙げる国、すなわち中国である。しかし、本当に番狂わせはないのだろうか? 優勝候補の中国をはじめ、その他の国の選手やチーム状態をみてみよう。
言うまでもなく、中国はユーバー杯の最有力候補だ。10年前、スシ・スサンティ率いるインドネシアの3連覇を阻んだ1996年の大会以後5回連続となる、通算10回目の優勝を東京で迎える準備を着々と進めている。中国選手が女子のシングルスおよびダブルスの世界ランキングで他を圧倒し、上位を独占している状況を踏まえると、たとえ中国チームの優勝に大金を賭けたとしても、わずかな額しか儲からないだろう。それほど中国チームの力はずば抜けて安定している。 ツァン・ニンとシェー・シンファンの2選手は向かうところ敵なしの状況だ。この2人がそろって出場した大会の9割で、両者が決勝で対戦する結末になっている。
実際、中国チームの唯一の懸念は、この驚異的な強さを誇る2選手以外に、誰がナショナルチームに加わるかという点しかない。数週間前、成都を舞台としたチャイナ・マスターズでシェー・シンファンを決勝戦で破り世界を驚かせた若干17歳のワン・リンをはじめとする多くの若手選手がめきめきと力をつけてきている。ワン・リン以外にも、チェン・リー、ジャン・ヤンジャオ、ルー・ラン、さらにはズー・リン(Zhu Lin)らもナショナルチーム入りを狙っている有望選手だ。 中国のリー・ヨンボ監督にとっては、誰を日本に送り誰を中国に残すべきかを決めるのは究極の選択になるかもしれない。 女子ダブルスでも世界ランキングのトップ2を中国が占めている。今年も全英オープンを制した(何と6度目の優勝!)、笑顔が印象的な親友同士のコンビ、ガオ・リン/ホワン・スイ組、そしてオリンピックのゴールドメダリストで現在世界ランキング2位のヤン・ウェイ/チャン・ジェウェン組である。ユーバー杯では全5ゲーム中最後の2ゲームがダブルス戦のため、接戦の場合には、ダブルス戦に出場する彼女たちが中国チームの勝敗を左右することになる。
韓国の伝説的なシャトラー、パク・ジュボンが数年前に監督に就任して以来、日本チームは驚くべき成長を遂げてきた。トップクラスの国の中では唯一ナショナルトレーニングセンターをもたず、トップ選手もそれぞれのクラブで練習するという日本チーム特有の土壌にパク・ジュボンは新しい風を吹き込んだ。トレーニングに新たな基準を設定し、選手に自分自身を信じることを教え、以前よりもスピードあるプレイを身に付けさせることで、日本チームの抱えるハンディを乗り越えたのである。
パク・ジュボンにとっては廣瀬栄理子が出現したことも幸いした。廣瀬はその才能によって瞬く間に世界のトッププレーヤーの一員に名を連ねた。ここ数ヶ月は本来の実力が発揮できていないとはいえ、サーキットに参戦するプレーヤーの誰もが脅威と感じるプレーヤーだ。 さらに、森かおりや米倉加奈子といったベテラン選手も若手にその座を譲る気配はまったくない。2人は2度目の青春を謳歌するかのように第一線で活躍し続けており、母国でのビッグイベントに向けて万全の準備を整えている。日本はメダル獲得の有力候補に挙げられていて、銀メダル獲得を目標にしているはずだ。
日本は過去5回もユーバー杯を手にしている。最後に優勝したのは25年以上前の1981年だが、今年こそトップに手が届く年になるかもしれない。トーナメント対戦表で中国から一番遠くに位置する第2シードになったため、リーグ戦を1位で通過した場合、決勝戦まで中国と当たることがないからだ。 また日本は、国内で絶大な人気を誇り、チームでもスターの小椋久美子/潮田玲子組が出場するダブルスでも期待がもてる。加えて、第2ダブルスとして安定した力をもっている赤尾亜希/松田友美組(世界ランキング15位)がチームの勝敗の鍵を握る。しかし、日本選手にとっての最大の武器は、何といっても仙台と東京で受ける自国の観衆の大声援ではないだろうか。
中国チームがゴン・ルイナの引退、怪我からいまだに復帰できないツォウ・ミーという2つの大きな穴を若手選手達がすぐに埋めたのに対し、韓国は、第一人者であり2004年のユーバー杯で韓国が決勝まで勝ち進む原動力となったラ・キョンミンの引退したことに加え、アテネオリンピック以降は運にも見放された状況だ。 前韓国チャンピオンのキム・キョンランは数年前に大きな怪我をし、結局、選手として復帰できなかった。2005年早々、スイス・オープンではジュン・ジャエユンが負傷するという不運にも見舞われた。シャトルを打っている彼女の姿がテレビ報道されたが、いまだにトーナメント復帰は果たしていないため、ユーバー杯のコートに彼女が立つかどうか微妙な状態だ。接戦の場合に勝敗の行方を左右する第3シングルに韓国チームがジュンを起用しない限り、出場の機会はないだろう。
こうした状況では、セオ・ヨンヒー、ファン、ジュン、イの各選手に期待せざるをえないが、彼女たちは大きな才能があるとはいえ、まだまだ若く経験がないという共通の弱点を抱えている。 韓国チームの強みはダブルスだ。チーム内で唯一世界ランキングのトップ10に名を連ねるイ・キョンウォン/イ・ヒョジュン組と、同34位の第2ダブルスがエントリーしてくるだろう。 このように韓国チームにとっては厳しい状態だが、コート上でチームスピリットを発揮した結果、韓国チームがこれまで大きな大会でしばしば番狂わせを演じてきたことを忘れてはならない。
第3シードのオランダチームが今大会のダークホースになる可能性がある。リーグ戦をグループ1位で通過した場合、準決勝で中国と対戦しなければならないとはいえ、周囲が予想するよりもメダル獲得のチャンスは高い。もっとも、イングランドとホンコンが同じグループにいるため、1位で通過できないケースも十分考えられる。この場合、決勝トーナメントでは中国とは決勝まであたらない組になるが、それでも準々決勝で日本と当たる可能性が高いため、喜んでばかりもいられないだろう。 この大会は、ミア・アウディナとヤオ・ジエが共に本選に出場する初めてのユーバー杯となる。両選手の活躍で、もしオランダが銅メダル以上を獲得できれば、今年一番の大番狂わせとなる可能性がある。アウディナとジエは経験も豊富で(アウディナは16歳でユーバー杯に出場した)、ダブルスにも出場できる。高い実力を備えているとはいえ、スタミナ面で大きな不安を抱える両選手が、数多くの試合を戦い抜くことができるかどうかにオランダチームの命運がかかっている。 アキレス腱の負傷からわずか1年でジュディス・メレンディクスが復帰できたことは、オランダチームにとって最高の朗報となった。彼女はダブルス陣の一翼を担うはずだ。さらに、出産で一度引退した後でカムバックを果たしたロッテ・ブルールも戦力として期待されている。ユーバー杯の常連だったデンマークチームが、今回、本選出場を逃しているため、ヨーロッパのチームで優勝を狙える可能性が最も高いのは、まぎれもなくオランダチームである。
仮に韓国、日本、オランダの3カ国が、中国に対抗する“公式”の有力候補だとすると、他にもホンコン、ドイツ、そしてシンガポールといった注目すべきチームがある。 ホンコンは、シングルスとダブルスの両方にエントリーし、本選出場の牽引車となったワン・チェンに命運を委ねることになる。しかし、若手プレーヤーが育ってきているとはいえ、世界ランキング3位の彼女1人の力でチーム対抗戦を勝ち抜くのは厳しいだろう。
ドイツは、シュ・ハイウェン、ニコール・グレター、ユリアネ・シェンクなど、シングルスとダブルスどちらもこなす器用さと実力を兼ね備えた選手を抱えており、大陸別予選でオランダ相手に大接戦を演じた実力を持っている。彼女たちはランキングで自分たちよりも上位に位置する選手たちに一泡吹かせるかもしれない。 シンガポールも同様に、中国に挑戦しメダル獲得を狙う各チームにとって厄介な存在になる可能性がある。調子が良い時には、リー・リーとチームメートは非常にすばらしいゲームをする。その良い例が若手プレーヤーのシン・アイーンである。彼女は第1ダブルスのリー・ユジャ/ジアン・ヤンメイ組と共に、シンガポールチームのメダル獲得の鍵を握っている。
イングランドも決して忘れてはいけない。ダブルスのトッププレーヤー、ゲイル・エムスとトップシングルのトレーシー・ハラムを擁しており、対戦相手にとっては油断できないチームである。トレーシー・ハラムは、2004年のオリンピックでカミラ・マーチンの夢を砕いたサウスポー選手だということを忘れてはいけない。 チャイニーズタイペイもシングルスに強力な布陣をそろえており(チェン・シャオチェーは世界選手権銅メダリスト)、ダブルスにも実力者を抱えている。リーグ戦で中国と同じグループに属することが、ひょっとすると決勝トーナメントの後半で有利に働くかもしれない。 アメリカ、南アフリカ、ニュージーランドの各チームは、名目的には他のチームより実力的に若干見劣りする。しかし、ニュージーランドはグループ別リーグ戦で多少は勝利を引き寄せる可能性があり得るし、ことによるとグループ1位になる可能性もなくはない。