1月、世界のトッププレーヤーが真冬のヨーロッパに集結。スイス、ドイツ、イングランドの3カ国で繰り広げられたヨーロッパツアーでは、信じられないゲーム展開を始め数々の熱戦が繰り広げられた。どの参加選手も「今年の大きな目標の1つ-5月に仙台と東京で開催されるトマス杯&ユーバー杯-に照準を合わせ、これから調子をあげていく」ことを念頭に、今回のツアーに臨んでいた。
1月にヨーロッパで行われた3つの大会で栄冠を手にした選手たちを囲んでの記者会見の席上、出席したプレーヤー全員が今年の大きな目標の1つとしてトマス杯&ユーバー杯を挙げていたことが非常に印象深い。3大会の先頭を切ったのはスイスオープン。この大会にデンマークとマレーシアはベストの布陣を送り込んだが、中国やインドネシアのトップ選手の中には自国での調整に専念した者もいた。それでも参加した中国選手の中には、中国代表チームにこれまで最も多く選ばれているシャー・シュエンザなど好調プレーヤーもいた。シャー・シュエンザは準決勝で強豪ピーター・ゲード(デンマーク)を破って決勝戦まで進出。しかし、2003年の世界チャンピオンシャー・シュエンザも、この大会で好調をアピールしたマレーシアのリー・チョンウェイの敵ではなかった。リー・チョンウェイは多彩なストロークを次々と繰り出し、15対8、15対0のストレートで完勝した。リー・チョンウェイのチームメートクー /チャンのペアは、大会最終日に第3ゲームまでもつれ込む白熱した決勝戦でボー/モーゲセン(デンマーク)ペアを破り2度目の優勝を飾った。この試合でマレーシアペアは、最終ゲームで8対14まで追い込まれてから脅威の粘りを見せ、マッチポイントを幾度も切り抜け、ついに逆転勝利。デンマークチームにとり、このスイスオープンは新しいダブルス布陣で臨んだ最初の大会だった。従来のパースクとラスムセンのペアは、今大会から、それぞれトーマス・レイバーンとピーター・ステフェセンとペアを組んだ。両ペアとも準々決勝で敗れはしたものの、初めての国際大会でこれだけ活躍できたことは、今後のデンマークにとって非常に明るい材料となった(レイバーンが負傷のため試合を棄権)。日本で開催されるトマス杯にデンマークチームは強力な4組のダブルス陣を送り込んで来ることが予想される。
女子シングルスでは、数ヵ月前に世界選手権で銅メダルを獲得するという快挙を達成したシュー・ハイウェンがスイスオープンでもすばらしいパフォーマンスを再現し、見事に金メダルを獲得。しかし、何よりも会場を驚嘆させたのは、中国の新鋭ズー・リン。今大会で第1シードに入ったフランスの強豪ピー・ホンヤンと準決勝で対戦したが、トータルでわずか5ポイントしか相手に許さないワンサイドゲームを披露。中国が2008年のオリンピックを始めとした将来のユーバー杯の制覇に向け、着実に準備していることがこの大会で証明された。女子ダブルスでも、中国のドゥ/ユペアが同じ中国のツァン/チャオペアを破り優勝。混合ダブルス決勝戦の組み合わせは、後の全英オープンの決勝に進出することになるロバートソン/エムズ組(イングランド)とブレア/マント組(イングランド)の組み合わせとなり、ロバートソン/エムズ組(イングランド)が優勝。

注目の全英オープンを1週間後に控え、中国のトッププレーヤー陣がヨーロッパツアー第2弾に向け、ドイツのミュルハイムに乗り込んできた。この大会ではデンマークの有力選手達が自国での調整を選んだ。さらに“主賓”の一人、タウフィック・ヒダヤット(インドネシア)が、自宅で行われる自らの結婚式準備のため参加を取りやめたこともあり、中国のスタープレーヤー達の独壇場になりそうな気配のドイツオープンだった。もし仮に中国のトッププレーヤーが全員、ドイツに集結していたとしても、男子シングルス優勝者の予想ははずれていたはずだ。栄冠を手にしたのは、大方の予想に反し、世界ジュニア選手権を2度制覇した若手のホープ・チェン・ジン(中国)だった。決勝戦はチェン・ジンと、世界ランキング1位のリン・ダンを準決勝で破ったチェン・ホンの対戦となり、チェン・ジンがシングルス優勝の快挙を達成。中国の若い世代が確実に成長していることを証明する中、若手女子プレーヤーのルー・ランも強烈な印象を与えた。ルー・ランは決勝戦で中国の先輩選手でアテネオリンピック金メダリストのツァン・ニンに敗れはしたものの、シュー・ハイウェンやシェー・シンファンらの強豪を破って決勝に勝ち上がった。この大会で中国はさらに2つのタイトルを獲得し、混合ダブルスではツァン/ガオ組が、世界選手権銀メダリストで、練習パートナーでもあるシェー/ツァン(中国)のペアを破り優勝。女子ダブルスでは、ヤン/チャンが同じ中国チームのガオ/ホワンを下して優勝。リー・ヨンボ監督率いる中国チームが優勝できなかった唯一の種目が男子ダブルス。中国のカイ/フ組が韓国のユン/リーのペアに準決勝で破れ決勝進出を果たせなかった。韓国ペアは決勝で英国のクラーク/ブレア組との熱戦を制しチャンピオンの座を奪取した。

ヨーロッパツアーの最後を飾り3つ目の大会となる全英バドミントン選手権大会は、数々の伝説に彩られたバーミンガムのナショナル・インドア・アリーナで開催された。全英オープンはウェンブリーから会場をここに移して以降、このアリーナで行われている。バドミントン界で最高峰のグランプリともいえる全英オープンでは今年もドラマが生まれた。こうしたドラマを誕生させる要因の1つが、会場に詰め掛けた熱心なファンによる熱い声援によるものであることは間違いない。準々決勝以降、5,000人を越える観衆がバドミントン界のヒーロー・ヒロイン達の繰り広げる戦いに大きな声援を送った。今年の全英オープンはこれまでのどの大会よりも勝負の行方が混沌としたゲームが繰り広げられた。マッチポイントを迎えても勝利の行方は決まらず、リー・チョンウェイ(マレーシア)とロバートソン/エムズ(英国)らが奇跡の逆転劇のお膳立てを演じる羽目になった。リー・チョンウェイと中国のリン・ダンとの対戦となった準決勝戦では、リー・チョンウェイが最終第3ゲームを14対13とリードし、全英オープンの決勝進出まであと1ポイントに迫った。しかし、リン・ダンはここから驚異的な粘りを発揮してゲームをひっくり返し、決勝へと駒を進めた。決勝の相手は、準決勝でデンマークのピーター・ゲードを破った韓国のイ・ヒョンイル。準決勝でのピ−ター・ゲードは序盤を理想的に運んだものの、徹底的に守り抜くイ・ヒョンイルの粘りとスローなシャトルさばきに悩まされ、第3ゲームを1対15という一方的なスコアで落とし、7年ぶり2度目の優勝を逃した。結局、決勝戦では2004年にこの大会を制したリン・ダンが今年の全英オープン・チャンピオンの称号を奪回した。
リー・チョンウェイに続いて、「ゲームセットの瞬間まで勝負の行方は分からない」という教訓を学ぶこととなったのは、連覇達成を期待されていた地元の英雄、ネイサン・ロバートソン/ゲール・エムズのペア。2人はいつものようにクレバーなプレーで、世界選手権の金メダルペア、ウィディアント/ナッチル(インドネシア)らの強豪ペアを大接戦を繰り広げながら退け、筋書き通りに優勝への階段を上っていた。決勝の相手はアテネオリンピックの決勝戦で2人を破った中国のツァン/ガオ。華麗なっプレイの英国ペアは理想的な試合運びでハッピーエンドを迎えるはずだった。序盤をすばらしい出足で征した英国ペアは第1ゲームを先取し、第2ゲームも熱狂的な声援を送るファンの後押しを得て14対12とリードしマッチポイント。観衆の大多数は地元ペアに声援を送ったが、アジア系住民の大きなコミュニティーを抱えるバーミンガムという土地柄を反映して、中国ペアへの声援もわずかだがある。応援席での劣勢とは逆に、中国ペアがここから驚異的な粘りを発揮し、5回のマッチポイントをしのぎ、第2ゲームを17対14で奪取。栄冠を目前にしながら第2ゲームを落とした英国ペアは精神的なダメージを拭い去ることができず、最終ゲームを1対15であっさり失い敗退した。アテネオリンピックのリベンジを地元で果たすと期待していた英国ファンの夢も破れ、ツァン/ガオが栄冠を獲得した。
女子シングルスでは、シェー・シンファン(中国)が世界選手権金メダルの実力を発揮し、前回の米国カリフォルニア州アナハイム(2005年の世界選手権の開催地)での決勝戦の再現となったツァン・ニンを破った。ツァン・ニンがいまだ手にできない唯一のメジャータイトル・全英オープンを制するチャンスがまたもや霧散。対照的に、ガオとホワン(中国)のペアは、2強の一方の雄で、これまで何度も決勝戦で対戦してきたヤン/チャンを破り全英6連覇を達成するとともに、自らのペア連勝記録も更新した。ここでの紹介の順番が最後になったが重要性では一歩も引けをとらない男子ダブルスでは、年齢と経験が若いパワーに負けないことを証明した。決勝に駒を進めたのはデンマークのエリクセン/ルンドガードと、マレーシアのリー/チュンという共にベテランのペア。準決勝にはマレーシア勢が若い2組のペアを含め3組も進出した。ベテラン同士の決勝は一進一退の攻防が繰り広げられ、第2ゲーム終盤でマレーシアペアが8対13の劣勢から逆転し最終ゲームに持ち込むことに成功。しかし優勝したのはデンマークペア。精神力で終始マレーシアペアを凌駕し、2004年大会決勝の再現となった接戦を制した。
今回のヨーロッパツアーは偉大なプレーヤー達が順当に勝利を収めて幕を閉じた。これらチャンピオン全員がトマス杯&ユーバー杯の本大会に出場するはずである。中国は従来にもまして力をつけている模様。20歳未満の女子選手5名は、すでに先輩たちの牙城に迫るほどの実力を有している。東京と仙台のゲームでは比較的楽なゲームに若手プレーヤーが登場するかもしれない。マレーシアはトマス杯に照準をあわせて動き始めているという明確なシグナルを送ってきた。リー・チョンウェイはまさに絶好調で、4組のダブルス陣は世界の強豪ペアを破る力のあることを披露。デンマークのダブルス新ペアは今後の活躍が期待できる。イェンス・エリクセンは少なくとも世界選手権まで現役を続けると発表したが、これはトマス杯にも出場するという意味だ。デンマークのユーバー杯チームにとって何よりの明るいニュースは、ティーネ・ラスムセンが怪我から9ヶ月ぶりに復帰したこと。韓国もトマス杯&ユーバー杯へ向けた準備をすでに始めている。一方、日本も非常によく準備しており、全英オープンでは女子ダブルス2組とシングルスの2選手がベスト8まで勝ち進むなど、主催国として万全の準備をしていることがうかがえる。
国家代表のユニフォームに身を包んだ選手たちが、あと3ヶ月に迫ったトマス杯&ユーバー杯のコートに登場することを考えると、期待に胸はますます熱くなる。
文:ラファエル・サシュタット
【Results】
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